エッセイ「下着泥棒対策あれこれ」

  下着泥棒対策あれこれ

 ついこの間下着泥棒の被害にあった。
 わたしはアパートの一階にひとり暮らしをしていて、生乾きの臭いがとても嫌いなので洗濯物はすべて外に干していたのだけれど、よくバイト先の店長だとか友人だとかに「え? 外に干してるの? 大丈夫?」といわれてはいたのだが、平和ボケしていたわたしは、下着泥棒ってのは都市伝説みたいなもので、わざわざ他人の下着を盗むような物好きなんてネッシーレベルの未確認生物だと思っていたから、実際に自分があってみてはじめて、あ、実在するんだ、と知った。
 とりあえず、ベランダが荒らされていたので警察を呼んでみたのだが、なるほど、二次被害とはこういうものなのか。やってきたのは男性警官三人で、家の外で話をしているのにとにかく下着下着下着下着下着と連呼され、これでは近所に「わたし下着取られました」と宣伝しているようなものだ。恥ずかしい。それからどういう下着なのかを彼らに説明しなくちゃいけない。非常に恥ずかしい。しまいには「下着を外に干しちゃダメでしょ」と叱られ、ええー、んあー、はあー、と返事をしたがなんだか腑に落ちないまま、帰っていく彼らを見送ったのだった。
 と、いうことを次の日女友達に話したら、「それって財布盗られたら財布持ち歩くのが悪いっていってるのと同じじゃん!」と激昂してくれたのだが、なるほど、うまいことをいう。確かにそうだよな。なんで女だからってパンツ外に干しちゃいけないんだ。外に干す権利はわたしにだってあるはずだ。わたしだって自由に天日干ししたい! 我々にパンツを干す権利を! わたしたちは昼間のファミリーレストランでチキンに突き刺したフォークを天に掲げながら、パンツ天日干し自由権を求めて怒りに燃えていたのだった。
 まあしかし、パンツ天日干し自由権をわたしたち女性が得るには、これからきっと数十年の時が必要となるだろう。なので、今自分でできる現実な対策としていくつか具体案を考えてみた。はい、一つめ。
・男物のパンツを履く
 これはなかなか即効性があっていいかもしれない。実際、前々から男物のパンツはゆるくて快適そうだと思っていた。けれど、これではなんだか何かに負けたような気がしなくもないので次の案、どうぞ。
・ベランダに卒塔婆を立てておく
 これもすぐに実践できるいい案だ。卒塔婆が立っているようなおどろおどろしいベランダからパンツを盗る気にはならないのではないだろうか。憑いてそうだし。しかし、下着泥棒は撃退できても何か別のものを召喚してしまいそうだという点が難点。では次。
・犯人のおばあちゃんのパンツも一緒に干しておく
 うん、かなりいい。おばあちゃんというのは人類の涙腺に対し最大級の破壊力を持つ。おばあちゃんのパンツを見ただけで、犯人はまるでおばあちゃんに監視されているような錯覚を起こし良心が痛み犯行を断念するだろう。けれどもこれを実行するには、わたしがまず犯人のおばあちゃんから下着を盗んでこなくてはならないのが弱みだ。次。
・つげ義春の不条理マンガをパンツにシルクスクリーンして犯人の性的意欲を削ぐ
 著作権違反。
・ベランダの窓一面にパンツのだまし絵を描いて犯人を錯乱させる
 賃貸契約違反。
・パンツ履かない
 却下。
 なんていろいろ考えていたのだが、もういっそのこと引っ越してしまおうかと悩んでいる。現在、浴室乾燥機のついている物件を探し中。

(『something25』より)

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