詩「夢追い人とハイエナたち、および地下の生活について」

夢追い人とハイエナたち、および地下の生活について

 

1  夢追い人は地下に暮らしている。

2  夢追い人は言葉を交わさない。

3  地上で埋葬された死者の体から漏れ出す夢が土を濾過して雫となって地下の世界へ夢漏りしてくる。

4  夢追い人たちは垂れてきた夢を瓶に入れ密閉し棚に並べて保管する。

5  1つの巣穴につき500ほどの夢が収集され、集められた夢は中枢へと伸びるチューブに接続される。

6  そのチューブはマザーの体につながっており、集められた夢がマザーの眠りに点滴されることになる。

7  マザーに直接会ったことのある者はいまのところ一人もいない。

8  夢追い人は眠らない。絶えず夢を採取してマザーを育てているうちに彼らの生はいつのまにか終えられる。

9  昔、夢とは生きているときに見るもので、地上のいたるところにありふれていた。人間だけでなく動物や植物も互いに夢で会話をするのが常だった。夢で話しているうちはハイエナたちも他の動物たちと同じように意地悪ではなかった。

10  やがて生き物が増加し、体系が複雑化したことによって、夢を共有することができなくなってしまった。

11  長年の苦労の末、新しいコミュニケーションの手段として言葉が作り出された。

12  するとだんだん人は生きている間に夢を見なくなり、夢は死者だけのものとなった。

13  そして深刻な夢不足になりハイエナたちの数が増え始めた。夢不足が進んだからハイエナたちが増えたのか、あるいはハイエナたちが増えたから夢不足になったのかはわからない。

14  地面に大きな穴がいくつか出現しはじめたのもそれと同じ頃だ。

15  人間のなかで、ある種の者たちがうっかり穴に落ちるようになった。

16  穴に落ちた者は地下に暮らす。

17  どうやって地下の住人となるのか説明しよう。穴に落ちた者はまず漂白させられる。地上の言葉を地下に持ち込まないように着ていた服はすべて捨てられ、消毒液のシャワーを浴び、漂白剤の風呂に沈められる。ちなみに、この風呂はマザーの胎盤液と同じ成分でできている。

18  浮かんできた者から順にカプセルを着せられる。このカプセルは今あなたが想像したような硬いものではなく、着ぐるみ状で可動式のカプセルだと考えてほしい。

19  その頃にはもうすっかり彼らから地上の記憶はなくなっている。

20  それからそれぞれ巣穴に導かれ夢追い人としての生活を始める。

21  そして彼らの生はいつのまにか終えられる。マザーのために。

22  地上にはハイエナたちがのさばっている。ハイエナたちはぺちゃぺちゃ喋る。ハイエナたちは人間たちに自分で手を下すことはない。彼らの手口は人間たちが争いを起こすように物を隠したり、人間の姿に変装して誤解を生んだりといったようなものだ。間接的に人間たちの殺しあいを助長し、そこから生まれた液状の憎悪や嫉妬を食べて生きる。

23  だから地上は危険な場所なのだ。

24  と、いうことになっている。

25  けれども地上の記憶をもっている者は地下にはいない。少なくとも夢追い人のなかには。

26  マザーは一生目覚めることがない。マザーは集められた夢を栄養にひたすら眠り続ける。

 

 

(『現代詩手帖』二〇一七年十月号新人作品再掲)

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